• Galaxy-Eye Modeler

東日本旅客鉄道株式会社 様

東日本旅客鉄道株式会社
東京電気システム開発工事事務所
電力基準審査室 様

安全性の向上・業務効率化を目的に
FTRと『Galaxy-Eye』新機能を共同開発

 東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)は、経営ビジョン『変革2027』のもと、少子高齢化の進展による生産年齢人口の減少に対応すべく、鉄道事業の生産性向上に力を入れている。その一環として、同社において電気設備工事を専門に担当する「東京電気システム開発工事事務所(以下、東電所)」では、電車に電力を供給する「電車線路設備」の更新・改修工事にBIM/CIMを導入する取り組みを行っている。これは、点群データを活用した現場測量や、3Dモデル・BIMモデルを活用し、工事設計の業務効率化と精度向上を図るものであり、東電所ではその初期段階として、点群データ処理ソフトウェア『Galaxy-Eye』に新機能を追加する形でFTRとの共同開発を行った。その内容は、2020年2月に開催されたJR東日本主催の『鉄道技術フォーラム』において一般公開されている。

共同開発に至るまでのエピソード

電車線路設備の3Dモデル化が課題に

 電車を走行させる電力を供給するため、電気鉄道では線路の上空に「電車線路設備」(一般的には架線と呼ばれる)を設けている。同設備は、柱、梁(ビーム)、電線(き電線や吊架線、トロリ線等)から構成される。近年の電車線路設備工事の多くは、更地に新設するようなゼロベースでの設計事例は少なく、電車を安全に走らせながら、既存設備を更新する事例が多い。そのため、既存設備の測量が必須となるが、それには以下の問題がある。

・電車が走行しない夜間等の短い時間帯において、線路内で測量しなければならない
・通常は設備に電圧が印加されており危険なため、活線部に接近しての寸法取りができない
・関係する部門が多く、計画変更が発生した場合、その都度、現場での再測量が必要となる

 そこで、JR東日本では、3Dスキャナーでのレーザー計測を導入する意向を持っていた。その目指すところはすなわち、

・列車が走行している時間帯でも、線路外からの測量を可能とする
・レーザーによる測定のため、高所の位置でも正確に測定できる
・施工を計画しているエリアの全設備の点群データを取得し、計画変更時の再測量をほぼ不要とする

 さらに、点群データから3Dモデルを作成し、3Dモデルに設備の仕様情報(属性と呼んでいる)を付与してBIMモデル化することで、電車線路設備工事の設計業務の効率化を狙っていた。しかし、レーザー計測で得た点群データは大容量のため、処理には多くの時間を要し、従来の技術では効率向上は望めない。そこで、大規模データ処理に対応し、3Dモデル化機能を持つFTR製点群データ処理ソフトウェア『Galaxy-Eye』を見出し、「電車線路設備」の分野に向けてFTRとの新機能の共同開発に乗り出した。

FTRとの共同開発機能

単純操作で点群を有効活用

 JR東日本とFTRは、以下の機能の共同開発に基づき、特許を出願した。
 現場の寸法のデータ化のみならず、設備のモデル化及び属性付与、設備の位置関係の把握等の機能を実装し、更なる業務効率化へつなげようとしている。

①電車線路設備の自動検出・自動モデリング機能
 レール付近の点群をプロットすると、装柱/架線/レールを認識し、3次元CADデータを作成、フィッティングする。点群を確認しながら、データ修正や属性情報の付与も可能。

②装柱図作成機能
 ①で作成したモデルに対し、当該箇所の点群とモデルを同時描写する装柱図作成機能を実装。モデル化された任意の2カ所を選択すると、レールからのトロリ線高さや、ビーム長さなどの測定を可能とした。本機能で作成した装柱図は、画像出力やDXF出力ができる。

③カテナリ検討機能
 架線を構成する線条の支持位置を選択、さらにパラメータ入力を行い、線条の諸元(素材、太さ、張力等)を選択することで、懸垂曲線(カテナリ)のモデリングを実現。張力変化、風圧荷重、温度変化による影響を描写することが可能。作成された3Dモデルや点群との離隔を確認することもできる。

④トロリ線の高さ、偏位測定
 モデル化したレールと架線を選択することで、装柱支持点および径間中央におけるトロリ線(電車のパンタグラフが常に接触している電線)の高さ、偏位(レールセンターからのトロリ線の離れ)を測定可能。

⑤わたり線の高さ、偏位、高低差測定
 わたり線とはレールが分岐・交差している箇所において、異なる架線の間をパンタグラフがスムーズに乗り移れるようにするための設備であり、厳格な寸法管理が必要である。モデル化した仮想空間の中で、対応する任意のレールと架線を2本選択すると、わたり線装置における測定すべき位置のトロリ線高さや偏位、高低差が測定できる。

今後の展望

新たな『Galaxy-Eye』機能開発へ

 JR東日本 東電所の電車線路設備部門では、更なる業務効率化に向け、FTRと『Galaxy-Eye』新機能の開発を行う意向である。点群のみならず、今後はBIM/CIMの有効活用にも注力し、「設計・維持管理に必要な各種属性情報を付与したBIMモデル」による業務効率化を目指す。
 すなわち、点群データの測定⇒3Dモデル化⇒属性情報付与によるBIMモデル化⇒各種図面の作成および技術検討⇒発注図書の作成を一連の流れで行える環境を構築することで

・設計・発注にかかる期間の短縮
・設計変更の削減
・設計品質の向上
・リスク管理の強化

 これらを実現することを企図している。

 日本国内では、生産性向上を目指しBIM/CIMを導入する企業が増加しており、JR東日本の土木・建築部門でも、既に点群データを活用した検査や、点群データを基に作成した設備の3次元化データを活用したフロントローディング等に取組んでいる。電気部門においても、今回の開発を契機に業務の更なる高度化に挑戦する。

東日本旅客鉄道株式会社 会社概要

代表者:深澤 祐二(代表取締役社長)
所在地:東京都渋谷区代々木二丁目2番2号
設立:1987年4月1日
資本金:2,000億円
従業員数:51,560人(2020年4月1日現在)